一級建築士の学科試験を突破し、次に立ちはだかる最大の壁が「製図試験」です。
特に、合否を分ける「ランクI(合格)」の基準は、多くの受験生にとって最大の関心事でしょう。
あなたは「製図の練習量さえ増やせば合格できる」と思い込んでいませんか?
実は、製図試験はアートコンテストではありません。
合格は、「採点官が不合格にできない図面を描く技術」、つまり「採点基準の徹底理解」にかかっています。
この記事では、現役の一級建築士として数々の受験生を見てきた筆者が、ランクIを確定させるための採点基準を明確化し、ランクII・IIIに転落する致命的な欠陥を具体的に解説します。

この記事を読み終える頃には、あなたの製図対策は「練習」から「戦略」へと変わり、ランクI合格への道筋が明確になっているはずです。
ココがポイント
この記事を読むことで、ランクIの基準を理解することができ、具体的な対策などが立てやすくなります。
そもそも一級建築士製図試験の採点基準とは?(ランクの定義)
製図試験は、単純な点数評価ではなく、IからIVまでのランク付けによって合否が決定されます。
まずはこのランクの定義と、合格に必要なボーダーラインを正確に理解しましょう。
ランクI~IVの定義と合格のボーダーライン
| ランク | 評価 | 合否 | 概ねの割合 | 定義(不合格理由) |
| ランクI | 設計条件、要求図書に対する充足度が高く、建築士としての一定の知識・技能がある。 | 合格 | 約35% | 欠陥なし。要求事項を過不足なく満たしている。 |
| ランクII | 概ね設計条件、要求図書に対する充足度は認められるが、課題に対する理解不足や表現に一定の不十分な点がある。 | 不合格 | 約30% | 減点はあるが、致命的な欠陥はない。惜しい不合格。 |
| ランクIII | 設計条件、要求図書に対する充足度が著しく不足し、建築士としての知識・技能が不足している。 | 不合格 | 約25% | 致命的な欠陥が1〜2点存在する。 |
| ランクIV | 設計条件、要求図書に対する充足度が極めて不足し、採点を行うに至らない。 | 不合格 | 約10% | 課題未了、白紙に近い、あるいは重大な法令違反が複数ある。 |
合格を目指す上で重要なのは、ランクIIの「不十分な点」ではなく、ランクIII・IVの「致命的な欠陥」をゼロにすることです。
ただし、製図試験における採点基準や加点・減点の詳細については公開されていません。また、受験者総数のうち3〜4割程度の合格者を決める「相対評価」を採用しています。

ココがポイント
模試評価でランクが高くても本番で出来の良い人が沢山いれば不合格になることも。
「やらかした!」とミスして落ち込んでいたり、模試評価が低かったりする人ほど合格していることもある…!
ランクIを「確定」させるために必要な3つの要素
ランクIは、次の3つの要素が欠けていない、つまり「ミスがない」状態を指します。
計画の要求充足(課題文の読み込みの正確性): 課題文に記載された要求室、面積、配置条件などを過不足なく、かつ適切に満たしていること。
法規・構造の整合性(致命的欠陥の回避): 建築基準法、防火区画、避難規定などの法令を遵守し、構造的に破綻していないこと。
表現の正確性とスピード: 要求図書がすべて完成し、図面や記述が正確で読みやすいこと。
最重要:ランクII・IIIになる「致命的な欠陥」の具体例
製図試験の採点において、これらの欠陥は即座にランクIII以下に振り分けられる可能性が高い、レッドカード項目です。
| 致命的欠陥のカテゴリ | 具体的ミス例(絶対避けるべきこと) |
| 計画上の欠陥 | 要求室の欠落・入れ間違い(例:必須の待合スペースがない)、面積の著しい不適合(例:要求された面積を15%以上超過/不足している)。 |
| 法規上の欠陥 | 階段の寸法不適(例:蹴上げ・踏面が法令違反)、避難規定の違反(例:直通階段が2つ必要箇所に1つしかない)、防火区画の不足。 |
| 構造上の欠陥 | 構造計画の破綻(例:耐力壁のバランスが極端に悪い)、大梁・小梁の不整合(柱から柱へ梁がかかっていないなど)。 |
| 記述上の欠陥 | 記述内容と図面が矛盾している、記述の解答欄が白紙である。 |
ランクIを掴む!合格者が実践する絶対クリアすべき4つのコツ
ランクI合格者は、製図の技術だけでなく、時間管理とミスの最小化に特化した戦略を持っています。
コツ1:エスキスは「時間割」ではなく「チェックリスト」で回す
エスキスに「2時間で終える」という時間割を設けるのではなく、「要求チェックリスト」に基づいて確実に進めることが重要です。
実践策: 課題文を読みながら、要求室、面積、配置、法規の条件などを色ペンでチェックリスト化し、エスキス各フェーズ後に必ずリストを再確認する。
コツ2:要求室と動線の関係性を図式化する
複雑な施設(例:ホテル、図書館、複合施設)では動線計画が命です。
実践策: エスキス開始時に、動線の相関図(マトリクス)を作成し、「利用者動線」「管理者動線」「搬入動線」が交差しないよう可視化する。
コツ3:作図は「手を止めない」ための準備が9割
作図中に迷ったり、道具を探したりする時間をゼロにすることが、スピードアップに直結します。
実践策: 使用頻度の高い定規やテンプレートは必ず利き手側に配置し、トレーシングペーパーを作図途中のチェックや修正のラフスケッチに活用する。
コツ4:記述時間は「図面チェック」の時間と考える
記述を早めに終わらせ、余った時間を図面の法規・構造チェック(致命的欠陥の確認)に使う戦略を推奨。
実践策: 記述作成の際は、「この計画にした理由」を図面を指差し確認しながら簡潔に書く。記述の時間は、エスキスや図面の最終チェック(特に法規)に充てる時間と考える。

記述は合否を分ける!製図試験の記述問題と対策のすべて
記述問題の出題形式と枚数・文字数の目安
記述の役割: 図面だけでは表現できない「計画の合理性」を採点官に説明するツールであると定義。
ちなみに、合格ラインに必要な枚数は最低でも20枚〜30枚と言われています。枚数をこなすには製図の「練習」というだけではありません。
枚数をこなしていく段階で身につけていくものが違っていきます。これに気づけるか否かで大きく製図スキルが変わってきます。
- 1〜5枚 製図で何を描くのか把握する
- 6〜15枚 なるべく見ずに描く
- 16〜20枚 見ないで描けるようになる
- 21枚〜 どのように描けば早くなるか工夫する
以上が枚数をこなしていく上で身につけていくべき内容です。これは教わってすぐできない内容だということは明白です。
合格に必須!記述対策の3つの柱と学習法
柱1:図面との一貫性: 記述で述べる内容は、必ず図面と矛盾しないことを最優先とする。
柱2:課題文のキーワードの活用: 課題文中の必須要求キーワードやコンセプトを記述内に織り交ぜることで、採点官へのアピール度を高める。
柱3:解答例文の活用: 過去の出題テーマに基づいた解答例文を参考に、言い回しや論理構成を習得することの重要性を説く。
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落とし穴1:記述問題での「独自解釈」や「過剰な主張」を避ける
問題点: 課題文が求める回答とは異なる独自の技術や過度な省エネ性を主張するなど、採点官の採点負荷を高める行為はマイナス評価につながります。
対策: 記述はシンプルに「要求事項を満たすための計画の合理性」を説明するツールと割り切ること。
落とし穴2:構造・法規の「思い込み」による致命的欠陥
問題点: 毎年、法規や構造計算を「学科で勉強したから大丈夫」と過信し、製図特有の確認を怠ることで致命的な欠陥を生むケースがあります。
対策: 製図試験専用の法規チェックリストを作成し、特に「避難階段までの距離」「排煙計画」「スパン割りの均整」を最終チェックシートに含める。
ランクIの先に進む:合格後のキャリアアップへの道
製図試験を乗り越えてランクIを勝ち取ったあなたは、一流の建築士としてのキャリアが始まります。
合格後のキャリアパス(設計事務所、デベロッパーなど)
製図試験対策で得た能力を実務に活かす方法
エスキスで鍛えた「計画力」は、クライアントへのプレゼンや現場での判断に直結します。
ランク1のための一級建築士製図試験で合格するまとめ
一級建築士製図試験の合格=ランクIの獲得は、「ミスをゼロにすることの証明」です。
今日から、あなたの製図対策を「時間との戦い」から「致命的欠陥を避けるための戦略」へと変えていきましょう。
まずは、この記事で紹介したランクIII・IVに直結する欠陥リストを印刷し、今後の製図練習のたびに必ず最終チェックを行うことから始めてください。
【次に進むべきアクション】
製図の練習に疲れたら: ➡️
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